喪失モノ

【概要】

人類がユーラシア大陸の大部分における活動圏を失った世界で"ヒトの世界"を護るために足掻く国連と希望の見えない世界で生きることを強いられた市井の人々が葛藤する世界

【用語】

・国際連合

かつては国際平和と安全保障、経済・社会・文化に関する国際協力を目指した組織。現在の世界では人類種の存続と活動圏確保を目的としている。種の存続にかかわる未曽有の事態を前にユーラシア大陸喪失の直前に行われた総会によって加盟国すべての政府を指揮下に入れることを承認されており、絶大な権力を背景に時にユーラシア大陸難民に関する処遇などで強引な舵取りを行っているために一般人からの反発は大きい。

ユーラシア大陸喪失圏に首都が存在した国家はすべて「臨時政府代表」という立場になっており、難民として避難したそれらの国の国民は国連の管理下に置かれている。また、それらの国個々の議決権は停止されており「臨時政府代表国家連合」という一つの集団としての議決権を与えられている。

以前の本部はニューヨークに存在したが南アメリカと地続きの北アメリカでは有事の際に喪失するリスクが大きいとされ、現在はオーストラリアのキャンベラに本部を移している。

 

・国連安全保障理事会

国連の主要機関の一つ。過去にも絶大な権限を有していたが、人類が未曽有の脅威に対峙している現在はそれとも比にならないほどの権限を有している。国連軍を指揮下に置いており現在の世界では唯一軍事力を有する組織である。

ユーラシア大陸喪失に際して一部の国が「臨時政府代表」となったため常任理事国の構成が変更され、非常任理事国の制度は廃止された。

常任理事国

・アメリカ合衆国

・イギリス

・日本

・オーストラリア連邦

・ブラジル連邦共和国

・南アフリカ共和国

 

・国連軍

国連安保理の指揮下にある軍事組織。いわゆる「強制行動型国連軍」。人類がユーラシア大陸の大半における活動圏を喪失する中で「種の存続」のために組織された。ユーラシア大陸に存在した国家の残存戦力と今も存在する国家の戦力を吸収している。

指揮系統は以下の通り

国連軍総司令部(オーストラリア・キャンベラ)

・国連軍北米軍司令部(アメリカ・ニューヨーク)

・国連軍南米軍司令部(ブラジル・ブラジリア)

・国連軍欧州軍司令部(イギリス・ロンドン)

・国連軍アフリカ軍司令部(南アフリカ・プレトリア)

・国連軍極東軍司令部(日本・東京)

 

・タスクフォース オシリス

タスクフォース オシリス(TaskForce Osiris)は国連軍が大撤退の後に組織したユーラシア大陸遠征探査部隊。"侵食域"について国連軍結成前に各国が収集した情報や国連軍結成初期の簡易的な情報しか有していない国連がさらなる情報収集と科学的な調査活動を実施するために組織した。調査にはあらゆる学問の専門家が参加し、護衛としてユーラシア大陸出身の軍人も参加している。

また、すでに判明している情報からも侵食域の大部分はおよそ人類の活動に適さない環境に変質している恐れがあるため、すべての参加人員にあらゆる極地対応装備が配給されている他、可能な限り安全に移動できるよう極地運用が可能な様に改修が施された装甲車両や舟艇も配備されている。

現在大陸に派遣されている部隊は以下の通り。

ユニット1:配置人員数312名

・旧中華人民共和国・上海から各留置都市を経由し旧ロシア連邦・クラスノヤルスク留置都市を目指す部隊

ユニット2:配置人員数305名

・旧ドイツ連邦共和国・ハンブルクから各留置都市を経由し旧クロアチア共和国・ザダル沖合に展開する国連軍地中海第二艦隊に合流する部隊

ユニット3:配置人員数153名

・国連軍黒海艦隊を起点にドニエプル川を可能な限り遡上し調査をした後、川を下り再び黒海艦隊に合流する部隊

以上3つの部隊がすべて2019年4月5日に出発した。しかし、いずれのチームも侵食域内の電波干渉によって展開早々に通信が途絶えており現在まで経過連絡の取れたチームは存在しない。

 

・隔ての壁

 「隔ての壁」は大撤退の後、国連がエジプトに建設したアフリカ大陸とユーラシア大陸を隔てる壁。管理は国連軍アフリカ軍が担当しており最低限の兵力と観測設備が展開されている。イギリス・日本・台湾・スリランカ・インドネシア等と並びユーラシア大陸に対する人類活動圏の最前線ではあるが、他の地域と比べほぼ地続きとなっているため失うことを前提にされている。その為、他の地域では大規模に国連軍の部隊が展開されているが「隔ての壁」周辺は逆にほとんどが無人地帯になっている。

 正式名称は「国際連合アフリカ軍アフリカ地域防護壁」であるが一般には聖書においてキリストが打ち壊したとされる「隔ての壁」と呼ばれている。

 

・方舟作戦

人類がユーラシア大陸における活動圏を失い始めたことを受けて国連と組織されて間もない国連軍が主導して行った大規模撤退作戦。一般に「大撤退」と呼ばれることが多い。

国連軍による正式名称は「Operation Ark(方舟作戦)」であり、有名な旧約聖書の物語から取られている。

およそ3年がかりで実行された作戦であり、運航可能なありとあらゆる民間船舶や民間航空機が国連によって徴発され、陸海空すべての輸送手段をもってユーラシア大陸から延べ19億人が南北アメリカ大陸・オーストラリア大陸・アフリカ大陸といったほかの大陸や日本・イギリス・スリランカ・インドネシア・フィリピンのようなユーラシア圏でも被害を受けていない地域へ難民として逃れた。

また、この作戦では動植物や文化的価値の高い芸術品、運用可能な兵器類も同時に輸送された。

 

・金門島事件

金門島事件は2013年3月15日に「Operation Ark」と同時に進められた敵への対抗研究の最中に発生した事件。事件は未曽有の事態を前に国連に再加盟した中華民国から国連軍が中国大陸における前哨基地として借用した金門島で発生した。当時、金門島に設置された「国連軍敵性成物研究所極東支部」では国連軍が鹵獲した敵の生体組織を利用した敵の生体組織の分析などが行われており、その実験の過程で発生したとされている。国連軍の報告書は大部分が機密指定されているため何が起きたのかなどは明らかになっていないものの、この事件によって金門島は核兵器による攻撃を受けその大部分を消失した。また、研究所から漏出したとされる"敵"によって周辺一帯が侵食された。

 

・留置都市

留置都市はユーラシア大陸に点在する人類活動圏。基本的に地理的特性や"敵"の侵食経路に入らなかったことなど様々な条件ゆえに奇跡的に侵食を免れた地域である。各都市の規模は大小それぞれではあるが概ね1000人程度の人口は有していることが多い。留置都市は大撤退で取り残された人々によって維持されているため、国連は当初段階的に都市の住民を人類活動圏に移動させる計画を立てていたがすでに19億人もの難民を国連による力押しで受け入れていた各国からの反発は大きく、特に一般人の反発は先鋭化する一方であったため断念した。代替策として都市が必要とする物資を空輸したり国連軍の部隊を派遣したり観測・通信設備を設置することで外部との交流を継続させている。また、留置都市全体で「ユーラシア都市連合」として国連の議決権を有しており、各留置都市は国連加盟国に準ずる扱いである。

 

・侵食域

侵食域は”敵"による浸食を受けた地域を指す。現在ではユーラシア大陸のほぼ全域が侵食域となっている。「非人類活動圏」と呼ばれることもある。侵食域には人類に敵対的な生物が存在するが、そもそも「侵食域が敵性生物を生み出すのか」あるいは「敵性生物が侵食域を生み出すのか」という問いに対する答えも現在の人類は持っておらず非常に謎が多い。ただし、"敵"が根付いてしまった地域は侵食されることが確認されている。

侵食域内部はその多くが人類の生存に適さない環境を有している。初期の国連軍による調査報告書には気温が60.5℃に達する環境や逆に-120℃まで下がる環境、重力が一定でない環境に変質している侵食域が報告されている。そのため、国連は敵性生物の存在も相まって侵食された地域に生存者はいないものと判断している。

 また、侵食域はその土地と空間に影響を及ぼすものの高空には届いていないため航空機などを利用したユーラシア大陸上空の移動は可能である。侵食域を上空から見ると漆黒によって塗りつぶされているかのように見えるため上空からの偵察はできない。

 

・肉塊

最初期に出現した"敵"。名前の通り一見肉の塊のように見え、国連軍の一部では「ミートボール」と呼ばれる。

基本的に接触しない限り動くことはないが"根"を張っており放置することは侵食域の拡大を意味する。

動きこそ遅いものの高い再生力と"根"を利用した攻撃によって多くの被害を出している。また、表面に肉腫のようなものを持つ個体は人に有害なウイルスを有しており、肉腫が損傷することで空気中に放出される。

焼却処理するのが最善の対応策ではあるが、極高温に晒されると表面を繭のようなもので硬化させるため焼却にも注意が必要である。

国連軍が回収した複数のサンプルを分析した結果、人類とDNAが99.9%一致することが判明している。

 

・B計画

1958~1977年に国連内のUNHSEと呼ばれる非公開組織が進めていた「A計画」に次ぐ形で国連がユーラシア大陸喪失以前に進めていたプロジェクト。関連するすべての情報が国連安保理によって機密指定されているため詳細は不明。

 

・侵食域拡大抑制システム

侵食域の存在が確認された初期の段階でEUが主導し加盟国の研究施設で開発が進められていた侵食域の拡大を止めるための装置。

実証実験には成功したものの本格的な量産段階に入る前に欧州全体が侵食されてしまった為、わずかに難民とともに人類活動圏に輸送されたものを除き失われてしまった。「大撤退」の混乱の中で設計図が失われており、また開発に携わった研究者の所在も不明のため現在まで量産はできていない。解体による分析も試みられたが、原因不明の爆発事故により周辺10kmが蒸発したため国連安保理によって無期限の禁止措置が取られている。

尚、運用状態にあるものとしては前述の「隔ての壁」にも本装置が設置されている。